東京・ターミナル都市の雑居ビルで起きた1分間
2018年の事件を取り上げ、東京の雑居ビルで働く人の閉店作業と防犯を考えるコラム。ナイトワークライター MIZUHO。
2018年6月11日、深夜0時5分。
閉店作業中の風俗店に、ひとりの男が入ってきた。
「財布を落とした」
それだけ言って、男は奥の部屋へ進んだ。
しばらくして、40代の男性店長が文化包丁で背中と脇腹を刺された。
命に別状はなかったという。
犯人の40代の男は、そのままビルと隣のビルの隙間の路地に転落し、搬送先の病院で約1時間後に死亡が確認された。
現場は東京・ターミナル都市の一角。
へいわ通りの東側、池袋大橋西交差点のすぐ近くに建つ、9階建ての雑居ビルの9階。
女性従業員が「店長が刺された」と110番し、駆けつけた警視庁池袋署が応急措置をしたという。
僕はこの手のビルを、歌舞伎町でも池袋でも、数えきれないくらい見てきた。
エレベーターが1基しかなくて、フロアごとに違う商売が入っている、あのビルだ。
「財布を落とした」は、業界的には古典的な口実だ。
一度ドアを開けさせて、中に入ってしまえば、あとは体力と勢いの勝負になる。
なぜ、その夜だったのか。
なぜ、その店だったのか。
記事を読んだだけの僕には、そこまではわからない。
ただ、2人のあいだに何かしらのトラブルがあった可能性を、警察は視野に入れて調べているという。
似たような造りの雑居ビルは、立川にもある。
規模も歴史も池袋とは比べものにならないが、駅から少し歩いた雑居ビルの上の階に、ぽつんと風俗店が入っている光景は、立川でも珍しくない。
閉店作業を1人でこなす店長。
ワンオペで最後の片付けをしている時間帯。
その無防備さは、池袋だろうと立川だろうと変わらない。
事件が起きるたびに、防犯体制がどうこうという話になる。
けれど、閉店間際に「財布を落とした」と言われて、無下に追い返せる店員がどれだけいるだろう。
夜の商売は、最後まで人を疑いきれないところで成り立っている。
余談だが、僕は最近、立川の夜の街もちょくちょく歩いている。
歌舞伎町や池袋ほど濃くはないが、三多摩には三多摩の空気がある。
このあたりはまた別で書く。
それを承知の上で、今夜もどこかの雑居ビルで、誰かが店を開けている。
ナイトワークライター MIZUHO
この記事を書いた人
ナイトワークライター MIZUHO
1990年、山形県生まれ。
地元では特に目立つタイプではなく、中学までは吹奏楽部でホルン担当。高校で陸上部に転向し、800m専門で県大会出場が最高記録。
大学は東京の私大・社会学部へ進学。上京後は軟式テニスサークルに所属しつつ、深夜のファミレスでレポートを書く生活が定着し、気づけば「夜のほうが集中できる体質」になっていた。
大学3年の秋、サークルの先輩に誘われて足を運んだ歌舞伎町で取材アルバイトを経験し、そのまま夜の街を書く仕事にのめり込む。
趣味:麻雀(点数計算だけは異常に速い)、深夜ドライブ、立ち食いそば巡り
好きな食べ物:鶏白湯ラーメン
苦手なもの:締め切り前日の自分
夜職従事者への取材を軸に、事件・事故のニュースを「現場を知っている側」から読み解くコラムを不定期更新。
